トレール乗りが見たV-ストローム250SX

海外では昨年発売され、すでに人気モデルとなっているV-ストローム250SX。日本でも昨年11月に行なわれたV-ストロームミーティングで国内発売が発表されましたが、9月末についに試乗する機会を得ました。すでに試乗インプレッション動画もいくつかネットにアップされているので、スペックや機能はそちらを検索して参照してくださいませ。

ここでは、トレールバイクユーザーの視点でV-ストローム250SXを紹介していきます。

V-ストロームシリーズは、水冷Vツインエンジンの1050/1050DE/650/650XT、水冷並列2気筒の800DE/250がラインナップされていますが、250SXは油冷シングルエンジンを搭載。この油冷エンジンはジクサー250用をベースとしたもので、潤滑から独立した冷却用のオイル経路を設けたSOCS(Suzuki Oil Cooling System)を採用して冷却効率を向上しているのが特徴です。フリクションロスも低減して、すぐれた燃焼効率を実現することで、高い燃費性能も両立しています。V-ストローム250SXでは、エアクリーナーケース形状を見直すことで低中速トルクも向上しています。

フレームもジクサー250をベースとしていますが、サブフレームはV-ストローム250SX専用設計でパッセンジャーの快適性と積載性の向上に対応しています。スイングアームも48mm延長し、フロントホイールサイズの変更(17→19インチ)とキャスター角の変更(24°20′→27°00′)もあって、ホイールベースはジクサー250から延長し(1345→1440mm)、直進安定性も高められています。

フロントサスはストローク量120mm、リヤサスは143.7mm。リヤサスは7段階のプリロード調整が可能で、タンデムや荷物積載時に合わせてセッティング変更ができます。ダート走行に対応するために最低地上高を165→205mmへとアップし、シート高も805→835mmと高くなっています。ABSもダート走行を考慮したセッティングで、ジクサーとは異なる介入度となっています。日本仕様のタイヤはマキシス製セミブロックパターンを採用。V-ストローム250よりオフロード走行を重視した仕上がりとなっているのが、250SXのおもな特徴です。

同じ250でも乗り味は
大きく異なる

今回はワインディングとダートで試乗しましたが、比較対象車としてV-ストローム250が用意されていました。V-ストローム250は鉄人・賀曽利さんが旅の相棒として20万kmを走破するほどタフさには定評があります。私も久しぶりに乗りましたが、足着き性もよく、エンジンは全域でマイルドなレスポンスですがパワーには伸び感があり、非常に扱いやすい乗り味は健在でした。

久しぶりに扱いやすさを再確認したというより、今回V-ストローム250SXと乗り比べたことで、V-ストローム250はオンロード寄りのアドベンチャーモデルだとハッキリと体感できました。前後17インチホイールはワインディングでの旋回性に貢献していて、軽快なハンドリングです。ハンドル幅もアドベンチャーモデルとして見ると狭く、ややタイトなライディングポジションに感じられます。

ダートではタイヤパターンの影響もありますが、17インチと小径なので、ワダチや岩などの外乱で振られやすいです。ハンドル幅も狭く、オンロードでは軽快なハンドリングはダートでは接地感の少なさに感じられ、慎重なマシンコントロールが求められます。そうした乗り味とライディングポジションが、ロードモデルのように感じる要因となっています。

一方、V-ストローム250SXはシート高835mmで、ハンドル幅もワイド。足着き性はV-ストローム250より厳しくなっていますが、ハンドルグリップ、シート座面、ステップ位置のバランスがよく、自然とアップライトな姿勢が決まります。トレールモデルのライディングポジションに近く、トレールユーザーには安心感が得られるはずです。装備重量は164kgでトレールモデルと比較するとやや重いですが、V-ストローム250からは27kgも軽く、さらに重心バランスがいいので停車時に振らつくような重さはありませんでした。

V-ストローム250SXはフロント19インチですが、ワインディングでの旋回性もよく、ハンドリングもクセがなく軽快です。エンジンのレスポンスはV-ストローム250よりクイックで、トルクも低回転から粘ってくれます。常用域での振動はV-ストローム250SXのほうが少なく感じるほどで、舗装路ではスムーズなエンジン回転が印象に残りました。高速道路は走行できませんでしたが、高回転ではやや振動を感じたので、高速巡航は並列2気筒のV-ストローム250のほうが快適だろうと思います。

舗装路で感じたV-ストローム250SXのスムーズさは、ダートでも感じられました。純正タイヤはダート路面でもグリップ力を発揮し、トルクが粘ってくれるのでエンストしにくく、ギャップやガレ場などの荒れた路面でもスルスルと走破していけたからです。

標準装備のタイヤはMAXXIS製のMAXEXPLORE

とはいえ、純正タイヤはトレールタイヤよりも剛性が高く、サスストロークもトレールモデルと比べると短めなので、荒れた路面では衝撃が身体に伝わりやすいです。さらにダート走破力は21インチホイールには及ばないので、マディや下り坂では繊細なハンドリングも求められます。ただしフロントブレーキは、ABS非装着のトレールモデルと同じ感覚で操作すれば(パニックブレーキをしなければ)介入してこないセッティングになっていたので、予想していたよりコントロールしやすく好印象でした。リヤブレーキのABS解除設定はなく、ブレーキターンはできないので、そのABSキャンセル機構はマイナーチェンジでの採用に期待したいです。

個人的にはトルクの立ち上がりにもう少し力強さがほしいと思いました。アクセル操作に対するマシンの押し出し感にダイレクトさが増して、ダートでよりクイックなマシンコントロールがしやすくなるからです。その分、アクセル操作に対してテールスライドを誘発しやすくなりますので、バランスを崩す原因にもなってしまいますが、そうしたマシン挙動を予想しつつボディアクションでバランスを取るのがダート走行の楽しさだと思うからです。V-ストローム250SXのライディングポジションはトレールモデルに近く、スタンディングポジションもしやすいです。ただ個人的に気になったのが、サイレンサーカバーです。スタンディングした際に、シューズがカバーに接触することが何度かあったからです。また、フロントタイヤが21インチなら、もっとペースを上げてダートを走破していけるのに、とも思っていました。

と、ダートでV-ストローム250SXを試乗していると、比較対象はV-ストローム250ではなく250トレールモデルになっていました。それは、V-ストローム250SXが自分の中ではアドベンチャーモデルではなく、トレールモデルのようにダート走行できるマシンと感じていたからです。

そこで改めてアドベンチャーモデルとして評価してみると、トルクの立ち上がりはこれで適切だと思い直しました。少しラフにアクセル操作をしてもテールスライドしにくく、それでいてトルクは全域で粘ってくれるので不意にエンストしにくく、ダートでもスルスルと前進していけます。マシンが前進していれば直進安定性も発揮されるので、バランスも崩れにくくなるからです。V-ストローム250よりシート高は高いですが、車重の軽さとライディングポジションのよさでバランス修正はしやすく、最低地上高の高さもダートでのマシンコントロールのしやすさになっています。

V-ストロームらしさの象徴「クチバシ」デザインを採用。V-ストローム250SXは、ダートで軽快な走りを実現した軽量アドベンチャーだ

V-ストローム250SXの車格や車重を考慮すると、オフロードコースでの走行やレース参戦も考慮して開発されたDR250Rほどのオフロード性能はありません。けれど、躊躇せずに林道に入っていけるツーリングモデルとして見るなら、そのオフロード性能は必要充分以上あると思いました。舗装路や高速道路では、かつての油冷エンジン以上にスムーズな走りを実現しているので、ジェベル200/250XCからの乗り換えにオススメしたい1台です。まさにSPORTS CROSSOVERな作り込みだと思いました。

250トレール好きオガPの個人的感想

ジクサー250用として開発された油冷シングルエンジンは、当初オフロードモデル用としてスタートしたという話を聞いたことがあります。もう少しパンチがあればと思う時もありましたが、最新の排ガス規制や騒音規制をクリアして、静かな排気音で実用的なトルクとパワー、そして好燃費を両立し、誰もが扱いやすさを感じられるエンジンになっているのはスゴイと思いました。ということで、このエンジンとフロント21・リヤ18インチホイールとを組み合わせたモデルがあれば……。と、思ったのも事実です。

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