GARRRR創刊35周年特別連載 『ガルルの証言者たち』第三回『石井正美-最速の畳職人』編

1986年のバイク全盛期に創刊したオフロード雑誌の草分け『GARRRR-ガルル-』。出版・発売元がこれまで多数変遷してきた中、じつは昨年で35周年を迎えている。ガルルを引き継いだゴー・ライドでは、そんなガルルのレジェンドたちの現在地を特別レポート。オフロード業界の重鎮たちにオフへの想いを語ってもらった。

―DT50で勝利した本栖湖エンデューロの真実―

石井正美。その名を聞いて連想するライダーも多いのではないだろうか? 本業は「畳屋」という異例の経歴で、モトクロス&エンデューロ界を盛り上げて、あらゆるタイトルを総なめにした「世界最速の畳職人」という愛称で親しまれたレジェンドだ。現在69歳。神奈川県藤沢市で「レーシングガレージビアーズ」というバイクショップを約20年前より運営。畳職人の道は、その際に引退したというレジェンドの語
り口は穏やかだった。

「現在オフロード活動としては、ビアーズのチームで10名ほどがJNCCに参戦しているよ。最近はもう自分ではあまり競技などは走ってないかな。たまに乗りたくなった時には神奈川の河川敷などで楽しんでいますよ。存在バレないように、ジミィ~に走行しています」

ビギナーにはここで説明しておこう。石井正美さんは普通にバイクを楽しんでいた10代の頃、兄からモトクロスのレースを勧められ参加。2回目の参加でオープンクラス3位といきなり表彰台に。その後もMCFAJエキスパートクラス、全日本モトクロスでも活躍し、後に「ヤマハの天皇」とも称されたトップライダー野口種晴選手から声が掛かりヤマハと契約。その後エンデューロでも活躍し、数々の競技会を制覇。エンデューロの歴史では、彼を抜きに語ることはできない存在だ。有名なシーンといえば本栖湖エンデューロ12時間という人気のレースで、フルサイズも含めた耐久レースをDT50(原付)で優勝した87年だ。

「別にDT50で勝って驚かせようって思ったわけじゃないんだよ。これには伏線があって、その2年前にヤマハの広報からセローでエントリー依頼があって、あのコースでは重くて合わないから来年は別のマシンにして欲しいといったら、次はTT250の350㏄仕様が用意され、これがトラブル続出の問題児で……こんなんだったら50㏄のほうがマシだよ……っていったら次の年はホントにDT50が用意されていた。ほぼノーマルで。前半6時間の走行では、マシンも体調もたまたま調子が悪くてね……でも後半の6時間はマシンも自分も好調で速度もかなり伸びるようになり、気が付けば優勝していた。速度も体感では50㎞くらいなのが最後は80㎞くらい出ていたと思うな」 これが奇跡の勝利の裏側だ。その後も数々のレースで活躍し「本格レース=全日本MX、エンデューロ=草レース」という時代から徐々にエンデューロの格をあげるインパクトのある活躍が続いた。89年から93年までバハ1000にも連続出場している。

本業は「畳職人」でありながら、トップライダーとして国内と海外で活躍した石井さんの貴重な一枚(KXにてバハ1000出場時)。契約していたヤマハのほか、KXシリーズやKTM、ハスクバーナなど、さまざまなバイクでモトクロス、エンデューロレースなどで幅広く活躍した。

「バハにも挑戦して楽しかったな。トラブルばかりで……TOMOさん(前回登場の吉原朋正さん)の次に乗ったらYZ250がもうボコボコになっていたり、松浦さん(同コーナーウイリー松浦さん)の後に乗ったらブレーキパッドがもう無くなっていたり、それだけ乗りかたも癖も違うのが面白かった。いまはたまにYZ250Fをトレーニング機種にしているけど、もう体力的に無理だよね。でもまた走りたい」
「ガルルについては、エンデューロテクニックのライテクページと、特集のインプレッションをやったよね。東福寺さんと一緒が多かったな。僕の場合はKTMも契約したことがあるから輸入車の場合はたいてい乗ったね」
 当時を振り返り語ってくれたレジェンドだが、現状をこう言及している。

「現行の公道オフロードモデルがほぼないのはとても寂しいことだね。バイクでオフロードをするか、しないか、とかそんな目線ではないんだよ。公道向けオフロードトレールは、ジャンル関係なく、入門用のバイクとしてとても大切なんだ。安くてシンプルで誰でもバイクを楽しめる、公道オフ車はそういうバイクの間口を広げる役割も持っているから。オフを走るかどうかはその後なんだよ。そんな意味では、最近ではベータとかを選ぶライダーが増えたね。万能機でレーサーよりマイルドで楽しめて価格もそれなり……そういうモデルって大事だよ」

90年代からはじまったのがこの人気連載ライテクページ『実践! 石井正美のエンデューロテクニック講座』。課題設定と、それに対するクリアの仕方を写真と図に落として解説。
また巻頭特集での新型車両インプレッションでも当時のモデルを独自に評価。分かりやすく人気に。

「あとプライベートで河川敷とかたまに走っていると、最近は若いライダーや女性も増えたね。でも見ていて危なっかしい。独りで来ているビギナーっぽいライダーをよく見るからね。ちょっと不安になる。ウチのお店にもそうだけど、動画などを見て頭でっかちで来店してくるライダーがいるけど、そんな人に限って怪我とかしちゃうから心配だよ。そうそう、せっかく編集部さんに来てもらったんだから宣伝して。当店はオフロードビギナー大歓迎!! ビギナーはガレージビアーズに行こうって(笑)。車両販売はもちろん、安心・安全で必要なテクニックも伝授しますって伝えてください(笑)」

本文でもふれたDT50で出場した本栖湖エンデューロの模様。店舗にパネルとして保管してある。
エンデューロの連載は人気となり書籍化も。いまでも保存版として参考にしているライダーも多い。
バハ1000出場時のKXで活躍した時の写真パネル。92年の記念大会の模様だ。
運営しているショップ「Racing Garage Beers-レーシングガレージビアーズ」。新車・中古車の販売はもちろん、カスタム、メンテナンスも丁寧に対応する(0466-28-2737)。
石井さんがガルルで活躍していた03年2月号より。当時は厚紙のペーパークラフトが付録となっており(しかもWR450F)、話題となった。
同じく03年時の主な広告の様子。カワサキのKLX250のページ。あのオレンジのKLXで20年前だが記憶に新しい読者も多いだろう。

石井正美が選ぶ ベストオフロードマシンはこれだ!!

RMX250S
まずこの一台が思い浮かびます。誰でもすんなり乗れて扱いやすくバランスが絶妙。いまでもどのバイクより楽しめる。

KDX200
KDX220SRのほうが人気みたいだけど、僕はKDX200が好き。エンジンのパワーや特性とサスが扱いやすいから。

GASGAS EC250
2000年前後のGASGASはとてもよかった。走る、曲がるはもちろん、設定サイズが日本人に合い小さく扱いやすい。

ヤマハ
じつはヤマハと契約していましたが、パッとこれがよかったと浮かぶ一台が……。直線が強い印象がメインで……。

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